劇作家デビュー

16日。William Mountfort, The Injur'd Loversを読了する。愛しあう一組の男女をめぐって、Fatherの野心、Kingの欲望、Princessの恋、Sonの愛がからみあい、最後には主要登場人物のすべてが死にいたるという悲劇。

暗い……。

* * *

15日。上野俊哉毛利嘉孝カルチュラル・スタディーズ入門』(ちくま新書,2000)を読了する。あてが外れる。

一幕劇『こたえが肝心』(2009年終戦記念日

【場面は、いままさに正午にならんとしている駅前のコーヒーショップ。男がひとり入ってきて、コーヒーを注文し、壁際の席につく。彼はいつものように読みかけの哲学書を出し、それを読みはじめる。別の壁際の席には、50歳には手が届きそうにないもののそれなりの齢を重ねた女性が座っている。女性は小奇麗な身なりをし、3つ荷物を所持している。彼女は何度も席を立ってコーヒーショップの店員のところに何ごとかを言いに行く。その行動を直視しないように注意深く配慮しつつ、男はココロのなかで「またか」とつぶやく。しばらく何ごともなく過ぎたあと、静かに女性は男のところへ近寄って行く。】

女性:あの、さっきコサージュ買いに行ったんですけど、お金が足りなくて買えなかったんですけど、今買わなくてもいいですよね、どう思います?
男:(すこし緊張気味の笑顔で)ええ、いいと思いますよ……。
女性:黒のコサージュ買おうと思ったんですよ、わたし、背が少し高いでしょ、ワンピースには黒のコサージュが似合うと思うんですけど、どう思います?
男:(笑顔のまま)ええ、いいと思いますよ……。
女性:わかりました、ありがとうございます、ありがとうございます。

【満足げな女性は、自分の席に戻って行く。男は平静さを装いつつも、「今日はワシのところにまで来たか」と思う。コーヒーショップには、友達と思しき老女2人が入ってくる。しばらく何ごともなく過ぎたあと、ふたたび静かに女性は男のところへ近寄って行く。】

女性:(シワクチャになった割引券を見せながら)あの、これ捨ててもいいですよね、わたしのお友達がすごい気がつく人でこういうのを持ってるの見るとどうしたのかすごい気にするんですよ、だからこれ捨てておいた方がいいですよね、どう思います?
男:(緊張度を増した笑顔で)ええ、いいと思いますよ……。
女性:わたしのお友達がすごい気がつく人でわたしの元彼のことを色々と聞いてくるんですよ、それって彼女がわたしに嫉妬してるってことでしょうかね、どう思います?
男:(笑顔のまま)ええ、そうだと思いますよ……。
女性:わかりました、ありがとうございます、ありがとうございます。

【満足げな女性は、自分の席に戻っていく。再襲撃の可能性を考慮に入れていなかった男は、必要以上の平静さを装いつつも、「さて、自然なかたちで店をあとにするにはどうしたらよいかな」と思案しはじめる。それと同時に、「もうここには来られないな」とも思う。それと同時に、「元彼って……」とも思う。表向きは落ち着きはらって哲学書を読んでいる様子を維持するものの、男の全神経は女性の方に向けられている。「『コサージュ』、『割引券』、『元彼』と来たから、つぎはなんだろ……」という疑問が彼の頭のなかを駆け巡る。しばらくして女性は、荷物をまとめて店を出て行く。】

男:(傍白)なんでワシやねん? ワシ? え? どう思います?

−完−

事実にもとづいたフィクションであることをお断りしておきます【作者】……。