あまい夜

ユージーンにしてはめずらしく早朝4時ごろに雨がポツポツと落ちだす。とおり雨に気持ちが動かされるのも、異国にいるという証拠だろう。

6日目、今日は授業がなく、完全なフリータイムの1日。羊飼いは11時ごろに起きだし、散歩がてら、これまで気になっていたブックストアに本を物色しにでかける。

このブックストアは1階がOregon Ducksのグッズを売っている店で、店内はシンボルカラーの緑色と黄色につつまれている。レジにいるオッサンが、テレビから流れる某体育大会の米対日の試合に熱い歓声をあげている。羊飼いはオッサンと眼をあわせないようにする。概してキャンパス内では、某体育大会に対する関心が希薄なようだ。そんな大会が存在することすら知らないかのように、毎日がゆったりと過ぎていく。この大学のHayward Fieldでアメリカの国内選考会が開かれたって言うのにね。

2階が本屋さんになっているので、1階のオッサンの視線を避けて階段をテクテクあがってみると、広々とした店内はゆったりとしたレイアウトで書棚が配置されている。さっそく、文学研究の書棚をみる……う〜ん。つぎに演劇関連の書棚をみる……う〜ん。さらに歴史、美術、精神分析関連の書棚をみる……う〜ん。哲学の書棚をみる……Zizekの新刊Violenceをみつける。思わず買いそうになるが、ここまできてZizek読まなくても、と思いとどまる。まあどうせ帰国したら買うんでしょうけど……。大学近隣にあるブックストアとしては、いささか物足りなく、毎日本屋をめぐる幸福がこれでなくなったことを少し寂しく感じる。大学生はみんなインターネットで本を買うのだろう。

キャンパス内のベンチには、老若男女問わず、色々な方がゆったりと腰をおちつけて、それぞれの本に没入している姿を日常的に見かける。大学とはこういう場所であってほしい。

dormに帰ってからは、自分の意志とは無関係に、眠りの底におちる。気づけば4時。今日1日なにも口にしていなかったことに気づき、儀礼的に食事を口にはこぶことにする。海外にでると、視覚の欲望が、食欲を簒奪し、いっきょに食事への関心が減退する。これまで食べた食事は、バイキング形式の食堂でサラダとサンドウィッチ(2回)、カフェテリアで買ったサンドウィッチとミネラル・ウォーター(のこりすべて)。もちろん朝食を食べる余裕なんてありませぬ。まあ、日本での羊飼いをご存知の方は信じられないとは思いますが……。サンドウィッチはロンドンよりもこちらの方がうまい。

その後、いつものようにミーティングを行う。今日が誕生日だという羊がいるので、ミーティングのあとにサプライズ・パーティ。羊飼いはこういうことにまったく疎いので、相方がすべてアレンジしてくれる。アメリカのチョコレート・ケーキは、あまい。脳ミソをかき回されるような毒性をおびたあまさに、やられる。ケーキはロンドンの方がうまい。パーティは、悪ノリしすぎて少し人間関係の難しさを感じさせる一幕もあったが、なんとかうまくハッピー・エンディングにおさまったように思う。みんなにおめでとうと言われる羊を、少しうらやましく思う休日の夜。

見上げた空が高くて……。