羊たちのドナドナ

昨日の暑さを引きずる陽気がつづく。ここでは「日替わりの天気」という表現は存在しない。おそらく天気予報も重要性を持たないだろう。

有能なインストラクターは、羊たち全員に、これまでに習った英単語のなかから1語だけを選び、小さな紙の切れ端にそれを書くように指示する。そして、その紙を提出させる。指名された羊は、ひとつの紙切れを選び、そこに書かれている英単語の意味を、ことばではなく絵のかたちで黒板に書く。残りの羊たちは、黒板に書かれた絵から、英単語を推測してあてる。ふつうはチーム戦のようだが、今回は個人戦。これを称してPictionary。有能なインストラクターは、優秀なハイスクールのフランス語&スペイン語の先生であり、どうやら、ハイスクールのフランス語の授業で行うゲームを、羊たちの英語教育に応用しているようだ。

羊たちの反応は悪し。習ったことが思い出せないということ、数回の授業を経て日本語をしゃべっても怒られないのを察知したこと、わからない場合はおふざけでごまかして開き直ってしまうこと……あああ、どこかの教室で見たような光景が眼前に展開されておるわい。羊飼いの羞恥心に免疫はいまだできていない。

さらに、fとvとbの発音練習を行う。これは羊飼いにとって、とても有益。やっぱりネイティヴさんから発音を教わるべきですな。羊たちは……。

その後、羊たちは、いつものようにOral skillsの授業に向かう。羊飼いと相方はボスのところに行って、昨日のディナー・パーティーのお礼を言い、ホスト・ファミリーとの待ち合わせ時間について最終確認をする。ボスはいつも笑顔で迎えてくれる。ありがたや。

ボスのところをあとにして、相方とお土産を物色しに行く。お互いに、さて困ったぞ困ったぞ、といった面持ち。オレゴン大学のロゴが入った黄色のTシャツを全員に買っていって、月曜日はみんなこのTシャツで出勤するように命じる、という案が浮上する。本気で。

今日の午後は授業がないので、羊たちも羊飼いも自由時間。羊飼いは、先日赴いた古本屋でふたたび本を物色する。今回はめぼしをつけるだけにして、購入するのをグッとこらえる。それでも2時間が経過してしまう。その後、カフェでお茶を飲みながら、The Country Wifeを再読する。

5時ちょっと前に、荷物をもって羊たちが集合してくる。駐車場まで彼らをひきつれ、そこで、それぞれをホスト・ファミリーの手にゆだねる。迎えにこられた方たちはどなたも善良そうでホッとする。浮かれ騒ぐ羊もいれば、未知の領域へ向かう不安を顔に浮かべる羊もいる。さながら、後者の心のなかでは、「ある晴れた昼下がり……」という歌詞とともにドナドナのメロディが流れていたはずだ。心なしか、車の窓越しに見える羊たちの顔が切なそう。羊たちを送り出した冷酷な羊飼いと相方は、これで2日間の自由時間が確保されることになる。ありがたや。

羊たちを送り出してから、なにかがオカシイことに気づく。今日はまだなにも食べていなかった……。そこで、5時半に本日の最初の食事を口にはこぶ。メニューはサラダ2皿とパン2枚とメロン4キレとオレンジジュース1杯。羊飼いに常食サンドウィッチを提供してくれたカフェが本日をもって夏季休業に入るため、明日からはこのサラダ2皿……が羊飼いの常食となる。

その後ふたたびカフェにてThe Country Wifeを読む。読書とともに1日が暮れていく。忘れかけた日常性をどうにか取り戻しつつある。

それとともに、忘れたと思っていた人の顔をふと思い出す……。