雫の1日

今日も曇りで肌寒し。焼きつけるような陽射しが急に恋しくなるところなど、ニンゲンとはわがままな存在である。

有能なインストラクターのゲームのネタはつきない。今日は"Boggle"。まず黒板に、縦6列、横6行のアルファベットをでたらめに書く。羊たちには2、3人のグループをつくらせて、グループごとに黒板のアルファベット群を書き取らせる。ゲームはここからはじまる。隣接するアルファベットをつなげていって英単語を見つけ出していき、10分程度でいちばん多く見つけ出せたグループ、さらに、いちばん長い英単語を見つけ出せたグループが、勝利者となる。羊飼いもひそかにやってみる。数よりも質を重視する羊飼いは、いちばん長い英単語を見つけ出すことだけに精力をそそいだ結果、ひそかに影の勝利者となり、ひとり悦に入ることに成功する。

その後、教室内でのオレゴン大学の学生との会話練習に備えて、質問のサンプル用紙が配布される。今日のトピックには、子ども時代のこと(punishmentの方法、お気に入りの食べ物、お気に入りのおもちゃ、遊び方、など)や、高校時代の思い出(Promなど)や、自分の国のこと(好きなところ、嫌いなところ、など)などがあげられている。

Promの話を聞いて、アメリカ人は若い頃からダンスに親しむ文化にいるのだなぁ〜と実感する。ふとタキシードを着て踊る自分の姿を想像してしまい、骨の髄まで日本人であることにホッとする。また、有能なインストラクターが、1年間の滞仏中、フランスにはP.B.J.(peanut butter and jelly)がなくて寂しかったので、アメリカから送ってもらった、と語るのを聞き、あんたも骨の髄までアメリカンだねぇ〜と思ってしまう。羊たちはというと、オレゴン大学の学生が話しては電子辞書を検索して意味をフムフムと理解し、自分のことばで質問に応答する代わりに電子辞書の検索画面を相手に見せて意思疎通をはかる、といった始末……電子辞書くん、今日も大活躍。でも、これって会話なの? 自分のもってる語彙でなんとか説明しなさい! 

授業後、ひとりの羊ににじり寄られる。相談事があるようなので、2人して石階段に腰掛ける。なにやらニンゲン関係のもつれに限界を感じ、息詰まっている様子である。眼からは雫がこぼれ落ちる……。羊飼いの最も苦手とするaffectiveなニンゲン関係の問題が、また眼の前に迫ってきたことになる。あいたたた、またか。羊飼いの前で雫をこぼすひと、これまでにも数名いたのですよ……しかも男がね。この羊をなんとかとりなして、授業に行かせる。通常ジュニア・ハイスクールの教師が相談をうけるようなニンゲン関係の問題(ユニバーシティの学生は自分で解決する問題)なんすけど……さてどうするか、と相方に相談した結果、とりあえず簡単な応急処置だけして、自然の流れに任せようということになる。目下、この対応がとりあえず功を奏した様子。

その後、ボスのところに出向くも、ひっきりなしの電話でお忙しそうなので、先に花屋へ出向き、予約してある花束の受け取り時間の変更をお願いする。この前の感じのよいオバチャンが今日も笑顔で応対してくれる。

12時ごろ、ボスのところに出向く。そこに有能なインストラクターもやってくる。今日は先日のdinnerのお礼に、ボスとインストラクターをlunch partyにご招待してあったのだ。4人して大学近くにある日本料理の店に出向く。みんな寿司などを注文するが、羊飼いは鰻にする。ここからマシンガン・トーク第2回戦がはじまる。学生のケータイ電話のこと、オレゴンの自然のこと(可愛い顔して狸は強暴)、日本人はチップの習慣がないので怖気づいてしまうこと(セブン・イレヴンの店員にチップをあげた学生がいるという話をして一同爆笑)、オレゴン大学の留学生のこと(日本人は減少傾向で中国人がかなり増加傾向)、日本の巻き寿司は通常ノリを外側に巻くということ(今日の巻き寿司は内側にノリが巻かれていたので)、などなど。本日のマシンガン・トークにも粘り強くついていく。「羊飼い英語なかなか上手」とボスがホメ殺しするので、「ユージーン大好き、ここで勉強したい」とホメ殺し返す。お2人とも喜んでくれたので、それだけで幸福になる。

昼食後にそれぞれ別れる。羊飼いはいったんdormに戻るも、勉強する気になれなかったので、キャンパス内をブラブラ歩くことにする。その後、出かけた時には何ももっていなかったはずなのに、Roy Porter, Quacks(20ドル也)を手にして部屋に帰ってくる。この本を読む。そして眠る。時計が5時半になったので、昨日同様夕食を口に放り込む。メニューは同じサラダ1皿……。

夕食後はまた本を読み、いつものように定例のミーティングでおしまい。残り少ない滞在なのだから、自分だけではなく、他のひとも楽しくなるような時のすごし方をしてみよう、と微妙な空気をまじえつつ提案してみる。ああああ、羊飼い、こういうの苦手です。

夕方からポツポツと雨が降り出す。ここでも雫か……と思ってしまい、なんとなく気がふさぐ。誰かが1階にあるピアノを軽やかにひいている音が聞こえてくる。陰鬱な雫と軽快な音のチグハグサが、今日という1日のすべてを物語っているような気がする。こんな日もありますな。

いつか終わりはやって来る、さて、どうやって笑いとばそうか……。