血の金曜日

早朝から健康診断に赴く。腕に突き刺さった細い針をとおしてワシの身体のなかから赤い液体が小さな容器へスルーッと移動していく。こうして眼にふれる赤い液体が今さっきまでワシの身体のなかにあったこと、そして、この赤い液体と同じものがまだワシの身体のなかにあることが、なんとも不思議に感じられる。それはおそらく、今回のように「スルーッと」でもよいし、あるいは、「ドクドクッと」でもよいだろうが、それらの表現で記述できるような己の血液の液体的持続を眼にする経験が、ワシの日常からは程遠いところに位置しているからであろう。血液の液体性にふれることが、凡庸な時間の流れのなかで、ささやかな出来事として生起する。

今日も学生が入れ代わり立ち代り来る日。そして、となりは今日も熱のこもった談笑に明け暮れている。ええい、もうなにも言うまい。

ふたたび奇跡がおこって原稿ができあがる。正確に言うと、できあがったことにしてしまう。そう、いつものようにね。

明日から東の京です……。