偉大なるドーナツ

22日。途中の駅からお母さんと女の子2人が乗車してくる。ワシの真向かいのシートに、お母さんを真ん中にして、同じ服装と同じ顔をした女の子たちがちょこんと腰掛ける。双子と思しき女の子たちは、すぐさま、ドーナツの袋を開けてほしいとお母さんにせがむ。そして、ドーナツが眼前に現れるやいなや、どちらの女の子も大きく口をあけて、そのドーナツをほおばりはじめる。彼女たちが本領を発揮したのはココからだ。口をパンパンに張らせたまま、同じ顔の二人が、両脇からお母さんに向けて満面の笑みを送り返したのだ。その笑顔は、それを見る者をも微笑ますようなキラメキにつつまれていた。「ニンゲンとは本当に不思議なものですねぇ……」。休日であることを実感する。

その後、研究室でクリフォード・ギアーツ『文化の解釈学I』(岩波現代選書,1987)の第1章「厚い記述−−文化の解釈学的理論をめざして」をサッと読みとばし、『驚異の成功物語』の一部分をタイプする。休日は存在しないことを実感する。

ドーナツ、偉大なり……。

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21日。とくに何をしたわけでもないのに、風邪が少し沈静化する。「人でなしの恋」の作者風に言うと、「ニンゲンとは本当に不思議なものですねぇ……」。

原文は「ニンゲン」ではなく、「恋」……。