伊那谷の夏

felice anno nuovo a tutti.

加島祥造氏が昨年のクリスマスに亡くなったことを知る。氏と友人であったアメリカ人の先生に教えをうけていたので、大学院のとき、そのアメリカ人の先生に同行するかたちで、伊那谷の加島氏邸に一泊させていただいたことがあった。いつのことだったかは正確には思いだせないものの、氏がマーク・トウェインを翻訳し、『ユリイカ』がトウェイン特集号をくんだ頃ではないかと想う。氏がタオイストとして巷間に熱狂的に迎え入れられる以前の出来事であるのはたしかだと思う。

教えを受けたアメリカ人の先生は、夏になると加島氏邸を訪問するらしかった。加島氏同様、この先生も創作をなさる方だったので、2人とも一日中それぞれの創作を行い、食事時にしか会話を交わさないような日々を過ごすらしかった。実際、ワシがお邪魔したときにも、加島氏は「書」をなさっていたように想う。

大学院の先輩に加島氏へのお土産を買ってくるように言われ、なにをお土産にしたらよいのか迷った記憶がある。結局、高級な紅茶を買っていったのだが、惜しげもなくそれをふんだんに使って皆でお茶を飲んだり、加島氏が作ってくれたパスタを食べたりした。そのパスタは、ボールに山盛りあって、庭でとれたハーブなどによって味がつけられていた。テレビはもちろんなくて、夏の夕刻を会話とともに過ごす穏やかで贅沢な経験だった。別れ際、優しく微笑み手を振って見送ってくれる氏の姿が、いまでも思いだされる。

その後、何度かテレビ番組でお姿を拝見する機会があった。そのたびに「あの夏のことを氏は覚えているかな」などと思ったりもしたが、「氏が覚えていなくともワシが覚えていればよいことだな」といつも思い直すのであった。心よりご冥福をお祈りいたします。

Addio...。