旅と啓蒙

今日は曇りのあと、晴れる。もうすぐここを去るということを知ってか、天気もようやく柔軟性を見せおったわい。

有能なインストラクターの授業も今日で最後。またしてもインストラクターは、昨日なにをやったか、羊たち1人1人に尋ねる。そして、またしても羊たちは、ショッピングをしたと答える……Tシャツ、ヨシダ・ソース、ウィンドウ・ショッピング、などなど。一方、有能なインストラクターの昨日はというと、奥様がヨガに行ったとか、自転車に乗る娘さんを犬が追っかけまわしたとか、ご本人以外の出来事が披露される。テレビに出てきそうなアメリカの幸福な一家庭の姿を想像する。その後、プリントが配布される。今日のプリントはAmerican Holidaysに関するもので、Easter, Independence Day, Halloweenなどについての解説が書かれている。羊たち1人1人をあてて音読させつつ、インストラクターは解説を加えていく。途中、羊飼いもあてられて音読することになる。

オレゴン大学の学生が教室に合流してきたら、彼らと一緒にカフェに移動する。ここから1時間ほどは自由に会話を楽しむ時間になる。羊たちは自分たちの飲み物を買うことに夢中になっていて、女性陣に対していっこうに気配りを見せない。業を煮やした羊飼いが彼女たちのところにコソッと行って、そっと「なにか飲み物いかが」と言う羽目に陥る。またしても日本にいたときの人格を捨ててしまう。女性陣からは「もってきたから大丈夫」という返答と微笑みをいただく。その後、羊たちとオレゴン大学の学生たちとの会話&写真撮影中は、しばしボーっとして時を過ごす。この時間が終了したとき、オレゴン大学のナイス・ガイから「来年は来ないの?」と聞かれる。「maybe」とお茶を濁す。すると「来てほしいな」とさらに言われる。「本当にナイス・ガイだね、あんたは」と心の中で思うも、顔はおそらく苦笑していたはず……。

昼食は、またしても相方と待ち合わせをし、これまでに2回行ったあのレストランで、これまでに2回食べたあの食事をそれぞれが食べる。己の哲学は曲げないのです。ただ、今日は少し豪勢に行きましょう、ということになり、相方はサラダ、羊飼いはbaked potatoをサイド・メニューとして注文する。やはりどれも美味だったが、羊飼いの場合、baked potatoが余計でございました。スープ、コーヒー、パンの三位一体を破綻させた罰として、その後の数時間、お腹の張りが罪人を苦しめることになる。

昼食後は、外で羊たちとペラペラ話をする。2時になり羊たちがSports activity(これも最終回)に行ってしまったので、羊飼いもdormに戻る。古本屋で購入したQuacksをパラパラと読んだり、惰眠をむさぼったりする。そうこうしているうちに6時になったので、お腹はすいていなかったが、2食食べるべし、という至上命令を胸に食堂へ向かう。今日はサラダ1皿とメロン3キレとオレンジ・ジュース1杯を食す。1人で食べていると、羊たちが1人また1人と周りの席に座りだし、いつのまにか談笑がはじまる。そして場所をかえて、夕食後も談笑はつづくことになる……まあ、もうすぐ終わりだし皆で談笑するのもよいかな、と思ったのだろう。こんなふうに考えられるのも、旅ならではのことなのかもしれない。

外で羊たちと談笑していると、40歳ぐらいのご婦人に声をかけられる。どうやらわれわれの話す日本語を耳にとめられて珍しく思い、声をかけてくれたらしい。このご婦人は、Nゴヤに住んでいたことがあり、その後スイスとアフリカを数年間渡り歩き、先月自宅のあるユージーンに戻ってきた、ということであった。「羊飼いもNゴヤからきました」と言うと、「わたしはお寺とお墓があって、なんとか大学があるところに住んでいたの、えええと……」とおっしゃる。「8事ですか」と尋ねると、「そうそう」と言って微笑まれる。その後、彼女としばし談笑し、握手をして別れる。これも、旅ならではのことですな。またしても、一期一会。

その後、定例のミーティングで今日もおしまい。羊飼いはそそくさと部屋に帰り、明日のスピーチの内容を考える。

旅は、机の前の孤独を見つめる瞳に、世界の存在を知らせる……。