真夏の悪寒

2日目はじまる。電波時計の設定がサマー・タイムになっていなかったのに気づかず、グデーっとしていたら、扉のノックがけたたましく鳴る。あれれ、電波時計さん、やってくれましたな。

今日から羊たちの授業がはじまる。ただ、今日はインストラクターの簡単な自己紹介と、明日以降のクラス分けのためのテストを行う。羊たちは沈黙する、のかと思いきや、インストラクターにencourageされて、ポツポツと英語を口にしはじめる。途中オレゴン大学の学生を交えて小グループでの会話練習となる。羊たちはこれもそれなりに楽しんでいるが、洩れ聞こえてくる羊たちの英語と、ネイティブ・スピーカーたちの苦笑(としか見えませんよ、あたしゃ)と、羊たちの英語力について交わされるネイティブ・スピーカー同士のささやきに、悪寒が全身を走る。えっと……真夏のはずだよね、と何度も窓の外を確認し、聞こえなくてもよいことを聞いてしまう自分の地獄耳を呪う。さてはこれに耐える精神修行こそが今回の目論見であったか……と、心のなかでつぶやく。

授業が終わると、また簡単なキャンパス・ツアーとIDカード作成に向かう。2日目にして羊たちになれが生じてきたのか、グダグダ感が漂いはじめる。律儀に翻訳しながら付き添う良き羊飼いの疲労もピークになる。疲れてるでしょ、とツアーのガイダンスをしてくれている女性に語りかけられ、とびっきりの苦笑を返してあげる。羊たちのテンションが急上昇したのは、唯一、チアリーディングの女の子たち(女子高生)に手を振ってリアクションが返ってきたときだけだった。まあ、馬鹿にされているとも知らず……歩みをゆっくりにして、無意識のうちに羊たちとの距離をとろうとしてしまう。

午後からは、男性と女性の方の助力を得て、2つのショッピング・モールを回る。羊たちは陽気に買い物に出かけるものと、疲労の色を隠せないものとに大別される。アメリカのショッピング・モールはメタボリック養成機関にほかならず、選ばれしものたちの鍛え上げられた身体に、これでもかといわんばかりに遭遇する。今回お世話をしてくれた女性ともホール放牧中に色々と会話してみる。彼女は国際関係を専門としている方で、スペイン語も勉強していると言う。おっとりと語る小柄な方。名古屋の夏の暑さをお知らせすると、驚かれる。

ショッピング・モールから帰ってディナー、ミーティングで今日もお開き。わたしの通訳稼業は今日で終わらせないといけぬ、と固く決意する(が……)。

アメリカのドライブ・レーンは広く、みんながスピードをよく出す。まあ、それにしても日本車が多いこと。

緑の芝生の一瞬のきらめきに、永遠の沈黙を感じる。野蛮な太陽がここでは美をもたらす。

わたし、疲れてます。キミハ?