ワシ、疲レテマス。

28日。シーンは唐突にはじまる。美貌をおもちのある若手女優に手をひかれて、急ぐように言われる。女史はなにやらとても慌てておられるが、こちらは状況がわからないままに闇夜のなかを一緒に疾走する。とちゅう、2人の知人を追い抜くことになり、すれ違い際にそちらに顔を向けると、2人のうちの1人に「楽しみにしているわ」と声をかけられる。まったく事情をあずかり知らぬままある建物のなかに駆け込むと、そこには舞台が備え付けられていて、どこからやって来たのか、演出家と思しき男が傍らで「デビューですが、調子はどうですか」などと気軽に声をかけてくる。どうやらワシはなにかを演じるようだ。そう認識すると、焦りが募りはじめる。このとき、手のなかになにか握りしめているものがあることに気づく。『ロミオとジュリエット』の翻訳本だった。「えー、ワシ、ロミオやるのかいな、しかも、もうすぐ幕が上がるみたいだし、台詞覚えてないし、あああ、どうしよう、どうしよう……」と思っていると、冒頭、ワシの手をひいて一緒に疾走してくれた美貌の若手女優が、ワシの耳元で囁いた−−「頑張りましょう、ジュリエット……」。

シーンは唐突に終わる。4時50分。漱石的に言うと「こんな夢を見た」というやつなり。なにかに追いつめられとるね、ワシ。

* * *

27日。最後列に座り、机のうえに置いたオノレたちの鞄の背後に隠れてものを食う女子が3人いる教室で、これから14週間も「シニフィアン」とか「神話」とか「差延」とか「現実界」とか言うことになる。鞄の背後で箸が上下されているのが見えるんだってば……。昨年は出席確認時に手を挙げる運動をしに来るだけの方たちがおられたが、今年は箸の上下運動をしに来るだけの方たちがおられるようだ。これはこの学部の伝統なのか。

あああ……。