美しい思想家

風邪、悪化する。研究室で論文を読んでまとめる。

蓮實重彦『帝国の陰謀』(日本文芸社,1991)を読了する。皇帝ナポレオン三世の「義弟」にして、1851年の「布告」と1861年のオペレッタ・ブッファの「署名者」としても名前を残すド・モルニー(ド・サン=レミ)をめぐる「私生児性」の物語=歴史が語られる。『ルイ・ボナパルトブリュメール十八日』の著者の役割を担う者の歴史観に注釈が挿入される。この書物ではハスーミ御得意の荒唐無稽さがいささか影を潜めているためか、こちらも真面目に読んでしまった。

夜テレビで「ヨシモト隆明」を見る。コミュニケーション能力を担わない「沈黙=凝縮=宿命」としての「ことば」に寄り添うことの重要性が語られる。このような何の役にも立たない無能な「ことば」こそが芸術なのであり、これは「労働価値」に還元されない強靭さをもっている。沈黙すれすれの「ことば」に耳をそばだてることが、これまでのヨシモトの生であったと言えるだろう。顔を少し上向きにし、両手を使い、矢継ぎ早にことばを紡ぎだしていく齢80を過ぎた思想家の姿は、美しい。それに、講演時間の超過を指摘されて頭をかくオジイチャンの姿は、やさしい。瞳の輝きに繊細であれば、ニンゲンはニンゲンの生そのものから多くのものを学びうるのだ。

明日から労働……。